字が汚い! 新保 信長 (著) 文芸春秋

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字がきれい、汚い。この差はどこにあるのだろうか。また、字はどうしたらうまくなるのだろうか。

汚い字に悩む人、きれいな字を書くことにあこがれる人は多い。「日ペンの美子ちゃん」などの通信教育、ペン字のノウハウ本、カルチャーセンターの講座等々がいまだに人気となっていることは、ハンドライティングに自信がないまま大人になってしまったと認識する人が、いかに多いかも示している。

また字が汚いというにもさまざまな種類があるようで、問答無用で破滅的に読めない字もあろうが、読めるけれども美しくない、「子供っぽい字」に悩む人のほうが多そうだ。

私たちは大人になれば自然と、皆が大人っぽい字を書くモノと思っていたが、そんなわけではないのだ。

本書の著者は悪筆(子供っぽい字)を自任するコラムニスト、新保 信長氏。出版社出身のライターであり、多くの書き手のハンドライティングをつぶさに見てきた人物でもある。余談ではあるが西原理恵子の漫画『できるかな』の担当として、同作品に幾度も登場するキャラクターとしてもおなじみである。

新保氏は、本書の主役である字が汚い人のほか、圧倒的に字がうまい人、そしてマージナルな存在である「うまくはないけど味がある字を書く人」(西原理恵子氏もこの分類だろう)などを取材する。また自らペン字の練習を同時進行しながら、悪筆界隈の様々な事柄をレポートする

文章もさることながら写真に注目したい。著者自身の字はもちろん、他のフリーライターや編集者、漫画家、政治家、野球選手らの字が容赦なく掲載されている。人の字を意地悪な目で見るのは存外楽しい。誰の手になる汚い字も、「どこかで見たことのある汚さ」で、笑えるのだ。

編集者泣かせの悪筆で有名な石原慎太郎をはじめ、有名作家の筆跡も掲載する。とりわけ驚かされたのは「枯木灘」「十七歳の地図」で知られる芥川賞作家、中上健次の自筆。異様ともいえる「犯行声明」風の筆跡が不気味な迫力。これはぜひ本書で確認してほしい

また、いわゆる丸文字やヘタウマなど、時代とともに変遷する少女の流行り字体の分析も興味深い。

読み進めるうち、良い字、悪い字の写真を多数見るうち、汚い字と味がある字の区別がつかなくなる感覚もある。

きれいな字は明らかにきれいだが、きれいな字に肉薄するちょっと汚い字より、自信をもって汚い字を書いているほうが、なんだか、なんとかなっているように見えたり、書いている内容がムカつく場合には二倍汚く見えたり、また有名な人なら許せるというミーハーな感覚も確かにある。

本書は字に関する悩みを持つ人がおおいに共感し、様々なエピソードで笑わせる本であると同時に、このような「汚い字」の不思議を浮き彫りにしている。

大テーマである、きれいな字と汚い字、子供の字と大人の字の差の素、本質のようなものがいったい奈辺にあるのか、ということに関して答えが出るわけではなく、いわばこれは脱出不能の迷路のようなものなのだ。

 

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