ジャズ・アンバサダーズ 「アメリカ」の音楽外交史 齋藤嘉臣著


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アメリカ外交史におけるジャズの役割を、国際政治学者の齋藤嘉臣氏が概観する一冊。

とくに第二次大戦後、米国務省が旗振り役となり、世界各地に派遣されたベニー・グッドマン、デューク・エリントン、ルイ・アームストロングら「ジャズ大使」。これぞまさしくジャズ・アンバサダーズの活動に焦点を当てている。

読みどころ1 音楽と政治の関係

その歴史的意義を考えるうえで、ジャズという音楽ジャンルがいかにして生まれ、また発展したのかを知ることが必要である

20世紀はじめに生まれた「アメリカの音楽」ジャズは、あらゆる音楽がそうであるように、政治と密接にかかわり合った。

歴史の浅い国家であるアメリカにおいて、その政治的な受容のされかた、立ち位置は状況により二転三転することになるのもまた、必然だったのかもしれない

20世紀初頭のアメリカの急速な発展、ゴールデンエイジを象徴する音楽であるとともに、第二次世界大戦中には、国の戦力たる若者が愛する文化としてアメリカの戦意高揚のために使われ、枢軸国には敵国の音楽として敵視された。

そしてジャズ大使が活躍した冷戦時代。アメリカの象徴、自由な西側陣営の象徴として、いわば国策として世界に輸出されたのである。

読みどころ2 ジャズは常に逸脱する

しかし、ジャズのルーツは、アメリカに移り住んだアフリカ系の黒人が、トランペットやコントラバス、ドラムなどヨーロッパの楽器で演奏した音楽。あたかもコカ・コーラのようにストレートに「アメリカの象徴」とするには、あまりに多層的で多義的だった。

反権力、カウンターカルチャーとしての存在感も持ち続け、マッカーシズムの時代には、共産主義との関係すら疑われていたのである。

国策的な観点では、黒人と白人が同じバンドで演奏する融和の音楽として民主主義の美点を示す音楽というメッセージも含意されていたが、現実の米国社会は大きく矛盾をかかえてもいた。

盛んにジャズが輸出された時代は公民権運動の真っ最中。ジャズは黒人のルーツ音楽として抵抗の象徴ともなり、国の意を受け派遣されるサッチモら黒人ジャズ大使たちには日和見主義者として批判されたのだ。

ジャズという音楽そのものも変わる。

国務省が大使として選んだのは旧世代を代表するスイングジャズのレジェンドたちが中心。チャーリーパーカーのビバップを嚆矢とする即興性が強い(それだけに危なっかしい魅力を持つ)モダンジャズ、70年代に花開くオーネット・コールマンらのフリージャズへの警戒は、常にぬぐえず存在したのである。

本書で丁寧に描写されるジャズ外交によるアメリカのイメージアップは、様々な意見はあろうが、公平に見ておおむね成功したといってよいだろう。

しかし著者は、ジャズの可能性をむしろ、国家の思惑から常にはみ出していく得体のしれぬ力に見ているように思える。その部分に、冷戦終結後、なおも新たな火種を生み出し続ける世界で、ジャズのあらたな役割を積極的に見出しているように感じられるのだ。

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