広告に恋した男 洗剤から大統領までを売るフランス広告マンの仕事術 ジャック・セゲラ著


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『広告に恋した男 洗剤から大統領までを売るフランス広告マンの仕事術』の著者、ジャック・セゲラは、フランスの伝説的なマーケターである。

数々の新奇な広告・マーケティング戦略を展開しフランス第二の広告会社を作り上げたことで、歴史に名を遺している。

本書はそんな彼の自伝だ。

読みどころ1 広告の可能性を大きく広げた伝説の男

セゲラの数々の伝説的な仕事は、広告の可能性そのものを大きく広げたものとして評価される。

スーパーマーケット業界の常識を覆した、仏小売カルフールのプライベートブランド(PB)商品「プロデュイ・リーブル(「自由な商品」の意)」のプロモーションをはじめとした、商品の販売戦略はもちろんではあるが、1981年の仏大統領選挙では、ミッテラン陣営のキャンペーンを担当し、大方の予想を覆し当選に導き、選挙における広告・マーケティングの力を知らしめている。

セゲラは早くから、大量消費社会の到来、そしてテレビをはじめとしたマスメディアが、広告の世界を大きく変えることを予測していた。戦後の退廃的、デラシネ的な若者文化を身にまとった彼は、どこか捨て鉢さを感じさせる、破天荒な方法で、マス広告のフロンティアを切り開いていったのだ。

本書は彼の自叙伝であり、自身の生い立ちから、若き日に試みたシトロエンでの世界一周、そしてその旅をきっかけとした広告業界との縁、手がけた数々の仕事のエピソードを、ふんだんに紹介している。

刺激的なのが、サルバドール・ダリ、ジャック・プレヴェール、セルジュ・ゲンズブールらアーティストとのかかわり。

彼らとの交流のエピソードはまばゆいばかりであり、特にダリに広告制作を依頼した際の、虚々実々のやりとりは刺激的。それまでインテリ層にさんざ軽視されていた広告を一流アーティストの表現の場としたのも彼の功績だ。

読みどころ2 きらびやかな広告賛歌

そんな伝説な人物ではあるが、セゲラには「無節操」「軽薄」「金の亡者」等々の悪評もあり、毀誉褒貶も激しい。

彼自身にもつねに自身の仕事への葛藤があり、その胸の内は本書でも繰り返し吐露される

しかしキャリアを積み重ねるうち彼は「広告は世界を救う」(!)との確信に至っていく。

最終章では「広告の皮相性は、それ自体に価値がある」「実用の芸術」「コミュニケーションの楽園」等の言葉が冴えわたる。

この広告賛歌のうたいあげは、本書でも白眉といえる部分ではなかろうか。

70年代フランスの流行に関する記述、言葉遊びもおおく、わかりにくいところもある本書だが、アメリカの広告業界のエピソードとは一味違うスピリット、否エスプリが感じられる文章。メディア、マーケティングに携わるものであれば手元に置いておきたい一冊である。

なお、本邦最初の刊行は1984年で、本書は絶版本を復刊するプロジェクト「絶版新書」の手による。重要な一冊なだけに、手に入りやすくくなったことは意義深い。

ちなみに、復刊に当たり、原題の『Ne dites pas à ma mère que je suis dans la publicité… elle me croit pianiste dans un bordel』を訳した『広告やってるなんて母さんには言わないで……安宿のピアノ弾きだなんて思うから』から、当世ビジネス書風(「広告マンの仕事術」!)に変えたのは、「エスプリ感」は薄れてしまうものの妥当であろう。だって意味わからんもの

 

 

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