人民元の興亡 毛沢東・鄧小平・習近平が見た夢(吉岡桂子著、小学館)


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『人民元の興亡 毛沢東・鄧小平・習近平が見た夢』(吉岡桂子著、小学館)は、中国の通貨である人民元を通し、中国史をたどる意欲的な一冊である。

著者は記者として中国を長く取材し、政界や財界に情報源を持つ元朝日新聞記者である、吉岡桂子氏である。

読みどころ1 通貨統一の夢

中国共産党の祖、毛沢東にとって、人民元は中国統一の象徴だった。

清朝末期、中国では、地域ごとに有力な勢力がバラバラに紙幣を発行していた。また、満州国発行通貨、その他外国通貨も攻勢をかけ、通貨戦争と呼ぶべき角逐が繰り広げられた。

本書では、対日防衛のために締結された国共合作から、戦後共産党による統一と中華民国との角逐と台湾との緊張関係、大躍進や人民公社、文化大革命、天安門事件、鄧小平の改革開放、WTO加盟、経済発展などを、その都度の通貨に関する出来事とともにとらえなおしている

共産党、中国中央銀行の幹部など政界だけではなく、文化大革命期に毛沢東により冷遇された近代経済学者のほか、現在経営権問題でゆれているアリババのジャック・マーをはじめとするIT企業の起業家等々へ取材。

各人各様の人民元への想いを語らせているのは読ませる構成だ。

読みどころ2 通貨に映し出される内憂外患

本書執筆当時には「為替操縦国」として同国を名指しするトランプ大統領の登場、通貨統一を新たに揺るがし、中国当局がその動向を注視するビットコインなどの仮想通貨といった、人民元にとっての新たな脅威が登場していた。

権威主義による国家資本主義ともいわれる体制の中で、貿易摩擦を背景とした人民元切り上げ圧力をかわしながら、また中国発展の原動力でありながら、常にコントロールの外側に脱出しようとする力学を持つ新興企業、投資家との駆け引きの中で、危ういかじ取りを迫られている。

抽象的な「貨幣論」の本ではない。というより、実は通貨そのものの話はかなり少ないようにもかんじる。

しかしそれも当然といえるだろう。

通貨は紙(あるいは電子データ)に価値が表象されたものであり、産業により生み出される財・サービス、そして他社との関係の中でしか実相がみえないものである。

人民元を主役に据えながら、国内政治・経済、外交の話題に大半が費やされているように見えるのも、自国通貨の価値は、が他社との関係の中にしかないことを示している。

本書は人民元という「メディア」に映し出されては消えていく事象を、映し出す試みといえるのではないだろうか。

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