総合商社――その「強さ」と、日本企業の「次」を探る(田中 隆之 著)
本書は日本型資本主義が生んだビジネスモデル「総合商社」の発祥、独自の発展、そして今後の展望を解説、総合商社の「どこからきて、どこへ行くのか」を、データをもとに丁寧に分析する。
読みどころ1 商社というビジネスモデル
ところで、「商社」という言葉には、ほとんど意味がない。
文字通りに解釈すればせいぜい「商業を行う会社」くらいの意味となる。商業の定義は、仕入れて売る、という業態のこと。卸売りや小売りなどがこれにあたろうか。
本当にそれ以上でもそれ以下でもないのである。
それどころか本書では導入的なエピソードとして、商社という言葉は、もともと単に「会社」と同義であったというエピソードさえ紹介されている。
こうなると、もはや業態について何も説明していることにならない。
しかし商社が、何事も説明していない名称であることは象徴的なことでもある。
商社が主に行う国際間のトレードの事業は、世界的にはかの「東インド会社」まで遡ることができ、貿易の歴史とともにある業態といえる。
日本では、商社は「総合」の語を冠し、戦後の高度成長期に独自の発展を遂げた。
きわめて広範な原料、商品の輸出入の仲介および直接売買、エネルギー開発など共同事業のオーガナイザー、事業投資、株式取得による企業運営等を行う、世界に類例のない業態となった。
しかもこの特異なビジネスモデルで分類される企業が、最盛期には三井物産や住友商事といった財閥系だけではなく、10社並び立ちしのぎを削ったのである。
読みどころ2 どうするどうなる商社の未来
本書では、なぜ日本では(総合)商社という業態が大いに栄え、現在の形になったのか、何度も起こってきた商社批判、衰退論、消滅論などにも丁寧に言及し、謎に迫っている。
そして現在、日本型資本主義も、グローバリズムのただなかにある。
総合商社も海外投資家、格付け会社らからの目にさらされる。しかも、日本独自の業態であることは資本のグローバル化の中においては何らのエクスキューズにならない
資本効率、事業の選択と集中への要求、IFRSにみられる時価会計、資源価格下落の影響もあり、新たなる衰退論も生まれている。
衰退論の是非はともかく、商社が大きな変革が求められる時代であることは確かだ。
しかし、言葉の定義からもわかるように、総合商社はそれ自体では何者でもなく、どのようにでも変わるものでもある。
世界が変動する中、商社はさらに形を変え、さらにいうとそれでも変わらない部分にこそ現在まで命脈を保ってきた要素があるのではないか。
本書は、その力の源泉がどこにあるのか、を探求する試みともいえそうだ。