ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム クレイトン・クリステンセン著


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『イノベーションのジレンマ』で有名な経営学者・コンサルタントで、2020年に亡くなられたクレイトン・クリステンセン教授が、自身のイノベーション理論をさらに深掘りし、現代の企業経営に一石を投じた渾身の一冊である。

読みどころ1 前作最大の疑問に答える

世界的なベストセラー『イノベーションのジレンマ』では、市場を席巻する巨大企業が、後発ベンチャーによる「破壊的イノベーション」に駆逐されるプロセスを解説した。

数々の経営者が座右の書として挙げ、学問的にも実務的にも大きな影響力を持った一冊である。

イノベーションのジレンマが広範に膾炙していく中でひとつ議論の的となっていたことがある

それは、破壊的イノベーションの誕生は、偶然や天才的「ひらめき」に任せるしかないのか

そして、イノベーションを予測可能なものとできるのか。

本書『ジョブ理論』はその疑問に答える試みだといえる

読みどころ2 イノベーションの種「ジョブ」はどこに?

本書でイノベーティブな事業が生まれるプロセスとして注目されるのは「ジョブ」の存在。

人の生活には無数の片付けるべき用事「ジョブ」がある。そのジョブは特定の状況下で現れる

そのジョブを満たすため、私たちは既存の商品やサービスをあてはめ、そこはかとない不満を感じながら使う。あるいはジョブを見て見ぬふりして、結局何もしなかったりもする。

その潜在的なジョブに対応する機能をもつ製品がイノベーションとなる。

ジョブは従来自明のものとされていた「ニーズ」と、それに対応する商品の機能のありかたを根底から否定する可能性がある

例として挙げられているのが、ファストフードのドライブスルーのミルクシェイク。

シェイクにおいて顧客が重視する機能は、普通に考えて味だろう。ほかには、かろうじて栄養くらいだろうか。

だから商品開発では、消費者の要望に合った味を調べて甘みや香りを調整したりする。栄養を気にする消費者に向け、ビタミン豊富な果汁の割合を増やしたりするかもしれない。

しかし、実はシェイクを雇用している人が解決すべきジョブが、ストローでの吸いにくさにより実現する、運転中の「ひまつぶし」にあるのだとしたら・・粘度や凍らせ方などで「もっと硬くする」ことが有効かもしれない

ことほどさように、ジョブは既存のカテゴリや顧客の属性などのデータ分析では発見できない。また、必ずしも競合と目している商品がライバルとは限らない。

顧客がどのような状況で、どのようなジョブを目にし、それを解決するためにどんな製品・サービスを使うのか、というストーリーを読み取ることが重要なのだ。

イノベーションを起こし、生産性の高い事業を起こすことが日本企業の課題として語られて久しい昨今。本書は既存の事業が、どのような顧客の「ジョブ」を解決するため提供されているのかを考えるうえで、有益な知見を含んでいる。

昨今の「ジョブ型雇用」ブームの理論的支柱ともなっている一冊だけに、未来の古典として、長く読み継がれる一冊となることは間違いない

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