新・神話学入門 山田 仁史 (著)

神話は人類の歴史とともにあり、特定の文化や社会集団において生まれ育った人々の間で、自らのアイデンティティとして大切に伝承される物語の体系だ。小説や劇作や漫画など、数多くのフィクション作品に翻案されていることからもわかるように、現代までその世界の豊かさは人々を魅了し続けている。

本書はそんな世界各地に伝わる神話を、コンパクトに解説する神話学の入門書。

取り上げるのは旧約・新約聖書のほか、ギリシャ・ローマ、南北アメリカ、ゲルマン、ケルト、ペルシャとインド、メソポタミアとエジプト、オセアニア、日本・アイヌ・琉球、中国、朝鮮、東南アジア、ポリネシア等々、文字通り世界中の神話である。

神話は最初から体系的な神話として作られたのではなく、様々な原典や伝承などのモチーフがある。本書では、多くの神話で扱われる創造主、英雄物語、大洪水、天と地の分離、楽園喪失等々の要素、また付随して伝説や民話、昔話等などにも言及している。

神話はいかにして生まれるのか

神話学とは、各地に無数に存在する神話を対象としている学問なのだが、その入門書たる本書の目的は、世界中のあらゆる神話の網羅的なリストを作ることではない(それは不可能だ)。

むしろ、今現在、一つの体系をなしている個々の神話を、標本のようにきれいに整理することは危険でもあることに気づかせてくれる。

その理由の一つは、神話学は、あくまで西洋の枠組みの中で神話が「発見」されることでできた学問体系であること。

本書では、キリスト教の宣教師によって「劣った野蛮人の神話」として、各地の神話が観察されてきた歴史も紹介している。そのような過程で収集されたテクストが現在、神話学において唯一に近い貴重な資料であることも多いのだ。

また、西洋人により自らの神話を「発見」される、その地域の人々もまた、外国の脅威に際し自民族のアイデンティティを確立するため、神話を編纂する必要性が生じた部分もある。

日本の古事記、日本書紀のように、歴史のある時期に、為政者により国の正史として神話が確定される場合もある。それは、非言語のものを含む無数の神話が消失する過程でもある。

著者の言葉を借りれば、神話は地域と時代を横糸と経糸として紡ぎあげたものであり、神話学を学ぶ際は、無数の神話が歴史と共に作られ、受容され、そして消え去ってきたということに意識的でなくてはならない。その「構え」を身に着けることこそ、神話学への最良の「入門」なのだ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です