アイアコッカ―わが闘魂の経営 リー・アイアコッカ (著), 徳岡 孝夫 (翻訳)
「アイアコッカ―わが闘魂の経営」は、米国を代表する老舗自動車会社フォードで、マスタングやクーガーなど、時代を画する数々のヒット車を生み出し、日本車の攻勢により危機にあった同社を立て直したリー・アイアコッカの自伝。
フォードの電撃解任からクライスラーの社長に転じた際に書かれたものである。
読みどころ1 たたき上げ社長の「闘魂」
アイアコッカはイタリア移民の家庭に生まれ、決して裕福ではない家庭から大学で自動車工学を修め、フォードに入社。マスタングの開発などに携わったほか、販売畑で代理店体制、画期的なローン制度などを整備した。
国民が車に求めるものの変化を読み、市場調査や開発、販売まで、まさにマーケティングのすべてをつかさどる八面六臂の活躍を見せた。
ちなみにその際のフォード社長は、のちにジョン・F・ケネディ政権において国防長官として活躍することになる、ロバート・マクナマラ。
絶大な信頼を得ていた社長マクナマラが政権に入ったことたことにより、たたき上げサラリーマン出身の社長となったのだ。
しかしここで運命の歯車が狂いだす。本書でもストーリーの中心となっている、創業者の孫、フォード二世との確執。
突然の社長解任、32年勤めあげた会社から去ることになる。
そして「復讐戦」としてのクライスラー社長としての現場復帰に際し、闘魂を燃え上がらせ、同社の、また米国自動車業界の未来を見据え、怪気炎を上げる。
読みどころ2 なぜアイアコッカは日本で人気になったのか
彼にはアメリカの自動車産業への強い危機感がある。
当時はイラン革命と石油危機などの新たな問題に直面しており、そのかじ取りは難しいものがあった。また、市場を席巻しつつあった日本車、日米貿易摩擦の真っただ中。
アイアコッカは日本企業のやり方への批判もしつつ、トヨタのジャストインタイム生産方式、Hondaの低燃費への取り組みなどに、実力を認め、見習うべきだと率直に語っている。
同書発刊当時、同氏は対日本の強敵あるいは好敵手として、ある意味で「時の人」となっていた。ビジネス誌だけではなく一般の週刊誌などでも多く取り上げられるいわば売れっ子。
一般に受け入れられた理由には、決して「悪役」としてキャラ立ちしていたからだけではないだろう
本書で描かれるサラリーマン社長の出世物語、大組織の中でもがき、いらだち、悩む姿、時に感情的、感傷的に傾く描写も含め、人間的魅力にあふれている。
とくに創業家と関係が悪化していく中、これまで信頼してい保身に走る幹部たちへの強い怒りの描写は生々しく心に迫ってくる。
その姿はどこか、日本のサラリーマン層に、共感性を生み出す何かがあったのではないか。本書を改めて読むとそう感じるのだ。