見に行ける 西洋建築歴史さんぽ 玉手 義朗 (著), 増田 彰久 (写真)


Amazonで購入

「見に行ける 西洋建築歴史さんぽ」は、グラバー邸から始まる日本の近代西洋史建築史を美しい写真とエピソードで紹介する本である。

本書は明治維新期から昭和初期までに築造された西洋建築を写真と文で紹介。グラバー邸をはじめ、学校、銀行や企業、個人邸宅まで、45の建築を取り上げる。

読みどころ1 日本の近代化を建築から見る

建築スタイルを年代ごとに分類しているのが興味深い。
たとえば、1863年に築造された英国人貿易商人グラバー邸。いわゆる鎖国時代から西洋や中国の窓口だった長崎において、港を見渡す丘陵の上に並ぶ外国人居住地に建つ、日本最古の木造西洋建築である。

この建物、見れば見るほど興味深い。湿気が多く靴を脱いで過ごす日本の生活スタイルに合わせた、広いベランダをもった建築様式が特徴で、擬西洋建築「ベランダ・コロニアル様式」と呼ばれる。

西洋建築と日本建築の技法とが融合するその姿は、必要美とともに日本の技術者、大工が迷いながら「西洋」を取り込みつつ、自らがもつノウハウを存分に注ぎ込んだことがわかる。

本書では
・「ベランダ・コロニアル様式」が誕生した「幼年期」

・英国の建築家、コンドルが伝えた技法を積極的に受け入れ、西洋へのキャッチアップへの若々しい気概が感じられる「青年期」

・国内の新世代の建築家により洗練され、多様な表現をみせる「壮年期」に整理。

いずれの時代も、建物から設計者、施主、技術者の思いが感じられるのだ。

読みどころ2 名家・財閥の歴史としての建築

さて、歴史に名をのこす豪壮な建築は、旧財閥、華族等が関与して建てられたものが多く、それらの紹介はそのまま、近代以降の日本の財界、名家の歩みをたどることでもある。

著者の玉手義朗氏は、近代の財界研究でも知られる、元為替ディーラーのエコノミスト・文筆家。当時の経済、社会、また建築の作り手、住み手の人物像などの解説も面白い。

そして最後に、本書のなくてはならない大きな魅力として挙げられるのが、増田彰久氏の手になる写真の数々。

増田氏は、日本の西洋建築に魅せられ、撮り続けてきたカメラマンである。

表紙の旧諸戸邸(三重・桑名市)の写真をみればその魅力は一目瞭然。空と建物の鮮やかな青色がまっすぐに眼に飛び込んでくる。

増田氏はあとがきのなかで、建築を美しく撮る方法として、建物の内外で「目の高さ」から撮ることだと語っている。なるほど。その視点により、建築を訪れた人が、まっさきに感じる美しい色彩、質感がダイレクトに捉えられるのだ。

本書の写真作品の数々を見るにつけ、自分自身の「目の高さ」で実物の建物を見たくなるような力がある。

本書のタイトルの通り「見に行ける」建築のコンセプトを存分にい味わわせてくれる、良質なガイドである。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です