イギリス法入門: 歴史、社会、法思想から見る 戒能 通弘 竹村 和也 著
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読みどころ1 唯一無二のイギリスの法歴史
本書イギリス法入門は、憲法や英米法体系など、近代法の淵源の一つであるイギリス法についてその歴史、法思想を平易に解説する本。
まず本書では英米法と大陸法の歴史的な起こり、違いをはじめ、判例法主義、コモンローとエクイティ、陪審制やソリシタ(事務弁護士)・バリスタ(法廷弁護士)など、英国の法手続きや法曹制度などが概観されている。
また、ジェレミー・ベンサムやエドマンド・バーク、ウィリアム・ブラッドストーン、エドワード・クックら、イギリスを代表する法哲学者の思想に言及しながら、イギリスの歴史のなかで、個々の制度がどのような思想に基づき生まれてきたのかを探っていく。
さて、憲法思想の起源であり、トップランナーであるイギリスに成文憲法がないことはよく知られる。
フランス革命や明治維新のような法の断絶がなく、また外来の法思想、制度を急激に取り入れたという歴史を持たない。英国の法源は、国王、貴族、市民、民衆が角逐の中で蓄積してきたものだ。いわばその歴史の総体が「憲法」として生き続けている。
綿々と受け継がれたイギリスの法制度の中には、議会上院である貴族院が最高裁の判決に関わる制度(2005年廃止)、行政権と司法権が重なる大法官制度、違憲立法審査権を持たない裁判所、判決理由を示さずに判決される陪審、バリスタが法廷で被るカツラ?と、私たちに理解しにくいものも多い。
読みどころ2 トップランナーにして時代遅れ?
そして近年、カツラはともかく、その制度の多くに対してEUや、欧州人権条約を発効する欧州評議会、国内の研究者等から、イギリスで生まれた権力分立などの法思想の観点から厳しい目が向けられているようになっているのは皮肉というべきか。
本書の魅力は、啓蒙思想や三権分立、マグナカルタ、憲法などイギリスの歴史をもとに英国法の歴史を学びつつ、現在進行形で進んでいるEU離脱(BREXIT)をはじめ、イギリスの長い法思想の歴史が、最新のトピックにどのように位置づけられるのか、スリリングな分析を試みていること。
たとえばBREXITは、国民投票による離脱という決定的な形になったことは偶然が重なった面があろうが、大陸法をもつ国が多いEUと、英国の摩擦の歴史をたどると、ある種の必然もあるように感じられるだろう。
英米法と大陸法双方の特徴を持つスコットランドについての解説もまた興味深い。スコットランド・ナショナリズムは、BREXITに際し、必然的にEUへの接近という形で表れ、それは歴史的に、古くから影響を受けていた大陸法への回帰であるという論考は、まさに目からうろこといったところである。
法理論を軸に、複雑な社会事象を理解する助けになってくれるだろう