ジェフ・ベゾス 果てなき野望 ブラッド・ストーン (著), 滑川 海彦 (解説), 井口 耕二 (翻訳)
世界14か国でサービスを展開、オンライン小売における圧倒的な存在感を示しているテックジャイアントAmazon。本書は、情報テクノロジーで日々のショッピングのありかたを変えたAmazonの創業者、ジェフ・ベゾスの評伝だ。
読みどころ1 エブリシングストアへの志向
ジェフ・ベゾスが、加速度的に成長するインターネットに注目し、Amazon.comを設立したのは1994年のことである。そして最初に扱った商品は、誰もが知るように(とはもはやいえないかもしれないが)書籍である。Amazonは新進気鋭のネット書店として出発したわけだが、ベゾスの最終目的はネット書店ではなかった。
創業前から、明確に彼が構想していたのは、WEBサイトでありとあらゆる商品を売る「エブリシング・ストア」である。
そのなかで書籍に白羽の矢を立てたのは、候補となる20種の商品を比較した結果、ISBNコードで世界中の出版物が管理され、通販のプログラムが組みやすかったこと、品質や形状にばらつきがないことなど、ITでの新規参入に適した特質を備えていたからだ。
読みどころ2 ネットとモノが世界を変える
Amazonの特異性であり、画期でもあったのが、この「モノ」に関する逆説ではなかろうか。
ネット事業の強みは、平たく言えばモノをもたなくてよいことである。
しかしベゾスは、オンラインにより実店舗が不要となることのメリットを十分に享受するとともに、大量の在庫と、巨大なフルフィルメントセンターを持つことに強いこだわりを見せた。
「物を持つネット企業」の狙いはどこにあるのか。本書ではその部分を徹底して掘り下げている。
そこには、まるで「てこ」のような力がある。商品を大量に仕入れスケールメリットで価格を下げ顧客を獲得、強力な販売力でメーカー、卸等のサプライヤー、また配送業者に対する交渉力、価格決定力を高め、さらに有利に調達。顧客への低価格化にも拍車をかけ、さらに売り、影響力を高める。その相乗効果である。
本書ではアマゾンのビジネスにより苦境に立ったサプライヤーや運送業者などの企業にも丁寧に取材しており、その功罪とを公平に論評している
小売業としての確かな地歩を築き、時に自らが立つ業界の足場をも揺るがしながら、事業を構築してきた稀代の起業家ベゾス。Amazonが摩擦を生みながらも、ユーザーの支持を受けてきた理由が析出されていく。
本書の発刊時には、電子書籍リーダー「キンドル」の発売が話題となっていたが、その後もアマゾンはネット動画部門、食品の実店舗、スマートスピーカ、そして生成AIなど、積極的な事業展開をみせている。
しかし現在においても同社の力の源泉は、圧倒的な「もの」の力にあることは間違いないのだ。本書はAmazonの経営を分析するうえで、さらに未来を占ううえでも、重要な書であり続けているのである。